アメリ(2001年)



監督 ジャン=ピエール・ジュネ
主演 オドレイ・トトゥ


フランスのモンマルトルを舞台に、恥ずかしがりやで一風変わった、 けれどもそれが魅力の、あるパリジェンヌの物語。 彼女の名はアメリ。自分の恋には奥手だけれど、 人を幸せにすることにかけては無二の才能を発揮する。

ヒロイン、アメリを演じるのはオドレイ・トトゥ。 まさにアメリに適役のファニーフェイス。 しかし、元は英国女優のエミリー・ワトソンがアメリのイメージであったという。 役の名もアメリではなく、エミリーであった。 しかし、ワトソンのフランス語があまり上手ではないことや、 ちょうど『ゴスフォード・パーク』の撮影とブッキングしていたことから、 ワトソンは主演の座を諦めることになった。

『アメリ』は数々の映画祭で賞を総なめにし、 フランス国内でも異例の大ヒットとなったものの、 カンヌ映画祭では扱われなかった。 カンヌの運営代表者ジル・ヤコブが『アメリ』を見て候補から外しているためだ。 しかし、ジル・ヤコブが見たのは、音楽がなく、 まだ未完成のラフカット版であった。 完成された『アメリ』を見たフランス観衆とメディアは カンヌが『アメリ』を扱わなかったことで批判の声を上げた。

また、『アメリ』は一部の批評家には辛らつな非難を浴びた。 フランス社会や特に人種の描写が非現実的かつ短絡的であり、 現実のフランスとかけ離れているというのが非難の主な内容であった。 しかしジュネは、八百屋で働くルシアンが北アフリカの出であることや、 アメリが恋するニノの証明写真コレクションには 有色人種の人々の写真も見られることで反論している。

ジュネ監督は初期の映画製作においてマルク・キャロ監督の存在がとても大きい。 ジュネとキャロは共同でいくつもの映画を作っている。 91年の『デリカテッセン』と96年の『ロスト・チルドレン』は二人の共作であるが、 ジュネ一人で作った『アメリ』との作風を比べてみると、 キャロのほうがよりダークファンタジーの要素を強く持っているのかもしれない。

ジュネ監督はindieWIREのインタビューで『ロスト・チルドレン』後、 ジュネとキャロは映画に対する方向性が異なったという。キャロとの映画には、 ジュネ個人の感情を入れ込むことができなかった。 そして一人で映画製作をすることを決意し、 今まで温めてきた思い出や逸話や小話などから映画を作りたいと思ったそうだ。 構想を練って4ヵ月後、『エイリアン4』の撮影のため一旦中断し、 その後ジュネが溜めてきたいくつもの小話を一つに収斂する 「他人を助ける女性」の物語にすることができた。

すでにエミリー・ワトソンを主演に置き、 そこから脚本を書き進めてきたジュネ監督ではあったが、 ワトソンの降板を受け、新たにオーディションを行なうことになった。 普段はオーディションの際、ジュネは10人から20人の女優に会うという。 しかし、『アメリ』では2人で済んだ。 というのも、1番目にオーディションをした女優がオドレイ・トトゥであり、 ジュネはこの出会いを奇跡のようだったという。 4秒で『アメリ』の主役がこのオドレイになると確信した。 その時の様子を、ジュネはこのように表現する。

”you’ve been actually picturing someone in your mind for months, sometimes a year and then suddenly to have that person materialise in front of your eyes is like a miracle.” (頭の中に何ヶ月も、時には一年にわたって思い描いていた人物が突然眼前に現れるのは、 奇跡のようだ。)

特に、ジュネはオドレイの目の大きさ、美しさを褒め称えている。 というのも、ジュネは『デリカテッセン』でもそうであったように、 特殊なレンズを使って目を大きくする撮影方法を使っている。 そのため、『エイリアン4』のウィノナライダーやこのオドレイのように、 目が大きい女優にその効果を使うと、さらに美しくなる、とインタビューで語っている。

『アメリ』の舞台にパリのモンマルトルを選んだことについて、 ジュネにとってこの場所に思い入れがあるようだ。 ジュネは常にフランソワ・トリュフォー監督の『大人は判ってくれない』を 思いながらこの『アメリ』を撮影したという。 例えば、『大人は判ってくれない』で、 主人公のアントワーヌの母親を演じたクレーヌ・モーリエは 『アメリ』ではアメリの働くカフェのオーナー、スザンヌである。 そして、ハトの大群が飛び立つシーンも、『大人は判ってくれない』から思いついたという。

また、ジュネは昔田舎からパリに上京したときに感じたパリの街の美しさを表現したいと思っていた。 しかし、問題は、パリに長く住みすぎて パリの良さや美しさを感じることができなくなっていたことだった。 だが、ちょうど『エイリアン4』の撮影で2年ほどフランスを離れていたことが功を奏し、 またパリのよさを再発見して『アメリ』にいかすことができたという。

もっとも、表現したパリは現実のパリではない。 現実のパリには雨も降り、交通渋滞もあり、 犬のフンですべって転んだりもするのだ、という。 そのため、撮影後デジタル処理を行なったことも事実である。 例えば、パリの街には車がいたるところにあるので画面から消したり、 天気が良くない場合は空の色を変えたりもしたそうだ。




参考インタビュー
http://www.efilmcritic.com/feature.php?feature=487
http://www.indiewire.com/people/int_Jeunet_JeanPier_011102.html




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