ペルソナ/仮面
directed by イングマールベルイマン
starring ビビアンダーソン



正式な日本語のタイトルは「仮面/ペルソナ」。
冒頭は、小さな男の子が出てくる。まるで死人のように。だが、死んではいない。もぞもぞと起き上がり、めがねをかける。少年はある女性の拡大写真を見つめる。それは誰?そもそもこの少年は誰なのか?これは誰かの夢?

そんな「?」を抱えたまま映画は始まる。ここで観客は二分される。ただぼ〜っとこの映画を見るのか、それとも「?」の解明のために手がかりを探しながら注意深く見るか。
「?」は解明されないかもしれない。だが、受動的な映画鑑賞に慣れた現代の日本人にとって、この映画は私たちの知的欲求を駆り立てる。誰だって、わけがわからない映画をそのままにしておきたくないだろう。


突然しゃべることをやめた女優エリザベスとその看護にあたる若い看護婦アルマ、二人の深層心理を対立させた優れた作品である。だが、途中からアルマの妄想が入り込み、現実に起こっていることなのか、妄想なのか、それとも始めから何もなかったのか、終わったときには???が残る。もしかしたらエリザベスの妄想なのかもしれない!?とも思えてくる。

物語ではエリザベスとアルマの力関係が途中で一変。アルマは天使のように、看護婦としてエリザベスに接する。看護婦は普段聞き役だが、口を閉ざしたエリザベスにアルマはさまざまな話をし、誰にも知られたくない過去の秘密まで打ち明ける。しゃべってしまうのは、アルマがエリザベスに愛情を感じているから。そしてアルマは実は自分がを研究対象として観察されていたことを知るとエリザベスに対する愛情が憎悪に変わる。ここからが怖い。アルマは危険な情事のグレンクローズ以上の狂気を持ち合わせている。

そう、エリザベスが回復していくのと入れ替わり、アルマは精神的に病んでいく。 それは見ている者が妄想なのか、現実なのかわからなくなるほど。もう看護婦なんかではない。

一部、観客を映像の世界から呼び戻すモンタージュを入れているが、それでも特殊映像や音響に頼ることなく、こんなにスリルを提供できることをベルイマンは50年近くも前に表現している。 煮えたぎる湯をかけられそうになるとき、思わず目をつぶりたくなるほど。それ以前に、アルマのエリザベスに対する嫉妬心、恨みがビルドアップして殺意に変わるまでを監督ベルイマンは巧妙に描いている。それこそベルイマン、ストーリーが命、やはり天才の一人。






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