悪魔のいけにえ



監督 トビー・フーパー

『悪魔のいけにえ』は原題をTexas Chainsaw Massacreと言い、 実在する殺人鬼エドケインの逸話を基に1974年に作られた。 つい最近作られた『テキサスチェーンソー』はこの『悪魔のいけにえ』のリメイクであり、 この『悪魔のいけにえ』が30年以上も私たちに影響を与え続けてきただけあって、 このオリジナルの恐ろしさは映像技術の発達したリメイクも超えることができない。

サリーとフランクリンの兄妹がジェリー、カーク、パムと共に 兄妹の故郷へ車で帰るところから映画始まる。 途中、痩身のヒッチハイカーを乗せるものの、車内は異様な雰囲気で包まれる。 突然ヒッチハイカーはナイフを取り出し、自分の手のひらを切りつける。 その後車椅子のフランクリンに突然切りかかり、何とか車から追い出す。 難を逃れた5人ではあったが、これは悪夢の始まりにすぎなかった。

トビーフーパーは脚本から監督、プロデュースまでこなし、カルト的人気を誇る。 インディーズとして低予算ながらも興行収入は3,000万ドルを超え、 78年に『ハロウィーン』がリリースされるまで最も売れたインディー・カルト映画と言える。 『悪魔のいけにえ』が生まれる第一歩となったのは、 トビーフーパーが混雑した店の中でどうやったら スムーズに店外に出られるかと考えているときに チェーンソーが突然目に入ったことがきっかけだとフーパーは言う。 これは、70年代初めのころ、フーパーがまだテキサスオースティンで 学校の先生とドキュメンタリーカメラマンとして生計をたてていたころの話である。

『悪魔のいけにえ』は仮タイトル”Stalking Leatherface”(追いかけるレザーフェイス) としてスタートし、撮影は1973年の7月から8月にかけて行われた。 低予算から、俳優は無名の者が多かった。 しかし、レザーフェイス役のガンナーハンセンはレザーフェイスを知的障害者と理解し、 障害者施設へ行き、行動を観察したという。 劇場公開は撮影の約1年後になるが、R指定として公開したにもかかわらず、 「実話」に基づいていることから反響はよく、 特に10代や若い世代に熱狂的に受け入れられた。

制作費は前作”Deep Throat”が好評だったことから、 その利益分で賄うことができたという。 もとより、低予算であったためそこにはいくつもの逸話が残されている。 例えば『悪魔のいけにえ』で使われる骨は本物の人骨であるが、 その理由として、プラスティックでフェイクの人骨を作るよりも、 インドから本物の人骨を仕入れるほうが割安だったからだそうだ。 また、特殊技術は予算が限られているために最小限に抑えられ、 映画中に見られる「血」は、そのほとんどが血のりではなく本物であり、 撮影中にキャストが誤って怪我したときに出血することは日常茶飯事であったという。 最後のレザーフェイスがサリーを追いかけるシーンでは 実際にサリーを演じるマリリンバーンズは幾つもの傷を負ったという。 しかしバーンズは人差し指をわざとカミソリで切りつけたこともあった。 なぜなら、通常では切り付けられるシーンを撮影するとき、 血が出るように見せかけるため刃の裏にチューブをつけそこへ血を送り流しているのだが、 このときはうまく血のりがチューブをつたってこなかったのだ。 また、バーンズの衣装は血のりでどろどろであったが、 撮影最終日には固まってガチガチになっていたという。

『悪魔のいけにえ』はトビー・フーパーにとって初となる長編映画であるが、 この成功によって世界を代表するホラー映画監督としての名を馳せる。 実に、この『悪魔のいけにえ』はカニバリズムをホラー映画の一つのテーマにし、 無慈悲なモンスター的殺人鬼を一つのキャラクターとして扱う 『ハロウィーン』『13日の金曜日』『エルム街の悪夢』のさきがけとなる。

『サイコ』や『羊たちの沈黙』のように、 この『悪魔のいけにえ』もウィスコンシンの猟奇殺人鬼エド・ゲインをモデルにしていると言われる。 しかし、この『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスがファミリーとして 家長制度的な暮らしをしていたのに対し、 本当のエド・ゲインは人間の皮をかぶってはいたものの犯行は個人であり、 シンボルであるチェーンソーは使っていなかったそうだ。 そのため、チェーンソーを持ったレザーフェイスがサリーを藪の中で追いかけるシーンや、 半分死んだ老いぼれの老人がサリーの血が出た指を吸うおぞましいシーンは全て製作側の創造である。

98年のインタビューでフーパーは『悪魔のいけにえ』について語っている。 この作品は結局「R指定」とされているが、フーパーはさらに客入りが期待できる 「PG指定」を望んでいたそうだ。 そのため、「PG指定」を取れるようにMPAAに直談判し、 パムがレザーフェイスに殺されるシーンにある“テクニック”を使うことにした。 事前に、フーパーがMPAAの担当者に 「女の子を豚をつるすフックに突き刺してぶら下げるシーンを どうやったらPG指定として見せられるか?」とたずねたところ、 長い沈黙があり、フーパーはその間タップダンスをしながら相手の返答を待ったという。 しかしなかなか返事をしないので、さらにフーパーはこうたずねた。 「もし突き刺すシーンがなく、血が出るシーンもなかったら?」 ついにMPAAの担当者はこういった。 「Yes.」クーパーは映像のモンタージュがいかに観客の様々な感情や想像を呼び起こすかを 知っていた。そこでレザーフェイスがパムを持ち上げてフックに突き刺すグロテスクなシーンに、 フックが皮膚に食い込むショットや血がしたたるようなショットを使わず、 代わりに役者のおびえる顔やギラギラ光るフック、 ちょうど突き刺さる時の歪む表情などを交互に映し出すことによって 逆に観客の想像をかきたてさらなる恐怖をあおる“テクニック”を使った。




参考インタビュー http://www.filmvault.com/filmvault/austin/t/texaschainsawmass4.html





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